日医連ニュース
日本医師連盟ニュース
2011/8/25(Thu.) 第68号 1・2/2 INDEX
原中勝征委員長に聞く
政策実現のための陳情活動を活発化

 原中勝征委員長が日医連委員長に就任し、1年半が経過した。この間の医政活動を振り返り、東日本大震災関連の対応や、今後の日医連活動の取り組みについて聞いた。

(聞き手 藤川謙二常任執行委員)

インタビューに答える原中勝征委員長(左)と質問する藤川謙二常任執行委員

─日医こそが医療団体の代表─

 ○藤川常任執行委員 まず、就任されて一年半を振り返って、日医連において達成できたこと、手ごたえを感じている部分、現在取り組み中の事柄などについてお話しください。
 ○原中委員長 私たちの考える医療政策を実現するために、政府にいろいろな働きかけをしていかなければならないわけですが、私が日医会長になった当座、中央社会保険医療協議会(中医協)をはじめ、政府の厚生関係の委員会においてさえ、日医は委員から外されていました。それが現在では、以前のように委員を派遣することができ、日医の意見を述べる基盤ができたことは確かだと思います。
 かつての自民党政権時代には、政治家が政党内で実質的に社会保障を決定する仕組みをつくっていたので、その政治家を中心に政治活動をせざるを得なかったわけです。しかし、現状そのシステムが変化し、今は副委員長・各常任執行委員が、政治家ならびに官僚と直接会って、政策の実現を目指していくということになったことで、以前より疎通性がよくなったのではないかと思います。
 反対に、今でも問題だと考えているのは、日医は開業医の代表であるというような間違ったレッテルを貼られて、それが未だ続いているということです。たとえば、救急医療のたらい回しということがマスコミで論じられてから、「中医協の在り方に関する有識者会議」なるものが小泉政権の時代に開かれ、我々のまったく関知しないところで、医療費全体の総枠を広げずに医療費の分配を変えられてしまったということがありました。
 ですから、今後やっていかなければいけないのは、日医が、日本の医療団体の総まとめの団体、あるいは全医師を代表する団体であることを、政府ならびに国民に対していかに浸透させるかということだと思います。
 ○藤川 今後、診療報酬・介護保険報酬の同時改定の問題もあります。
 ○原中 同時改定の問題で言えることは、そのもとになるのが医療経済実態調査であるということです。その実態調査が、東日本大震災のような大きな災害があった地域を含めた時に、果たして正確な調査結果が得られるものかということを非常に疑問視しています。そこで、我々は、平成二十四年度の診療報酬・介護報酬同時全面改定を見送ることを要請しているのです。
 被災現場に何度か足を運びましたが、被災されている方の生活に大変な問題が起こっていることがわかります。これから先、生活の不安のみならず、精神的な問題が増大する状況で、一刻も早い段階の手立てが必要です。
 ですから、厚労省役人や中医協の委員の人たちに対しても、まず現場に行って肌で状況を知ってもらいたいということを我々は主張してきました。その結果、中医協の会長も、行ってみて自分の考え方が変わったというぐらい、やはり現場を見ないとわからないことがあります。
 また、私たちは政権与党である民主党の国会議員はもちろん、野党である自民党などの人たちとも話し合いを続けてきました。
 最近、超党派の社会保障を考える勉強会「健康政策研究会」ができました。私たちは、そういう人たちの考え方も視野に入れて政治活動をしなければなりませんが、同時に、政府与党の「厚生労働部門会議」や「適切な医療費を考える議員連盟」の先生方にも日医の考え方をご理解いただき、適正な医療費の獲得をしていかなければならないと思っています。
 ○藤川 日医は、日医の政策が国民にわかるようにマスコミを通じて発表していますが、それを実現していくには、政権与党を中心に、弾力的な陳情活動により政治家の理解を得ていくということが非常に大事なことだと思います。

─陳情活動には地元医師連盟との連携が不可欠─

原中勝征委員長に聞く/政策実現のための陳情活動を活発化(写真) ○藤川 今後の政局を見据えて、日医連の政治活動を短期的にどのように展開していくことを考えていますか。
 ○原中 私たちは、日医の重要政策を企画立案しているわけですが、それらを政治家の方々に理解してもらうには、地道な陳情活動が必要になってきます。民主党政権においては、事業仕分けのなかで「福祉医療機構」をなくすという問題がありましたが、あの時は副委員長および常任執行委員が一生懸命働きかけを行うことで、結果的に「福祉医療機構」を存続させることができました。今回の東日本大震災において、この「福祉医療機構」による資金貸付等の支援がどれほど機能したかということを考えると、あれはまさに日医連が達成した最大の陳情活動だったと考えています。
 また、医学部新設の問題やワクチン接種の公費負担、TPPと経済特区の問題、このたび被災した医師の二重債務の問題、あるいは公益法人制度移行に伴う都道府県医師会のもつ母体保護法指定権の問題等もいろいろありましたが、短期的に対処できたものと考えております。これらのほかに、断続的な問題もあり、鋭意陳情活動を行っているものもあります。
 ただし、医学部の新設問題については、まだくすぶっている部分があり、歯学部新設時の轍を踏まないような形で取り組んでいきたいと考えております。今のところは新設大学を設立せずに、既存の医学部定員を増やすことによって解決しようという方向が少しずつ強くなってきたような感じもします。
 ○藤川 日医連の活動として、中央でさまざまな医政活動をしておりますが、国会議員というのは全国各地から来られています。やはり地方の医師会における医政活動も重要だと思うのですが、その点についてはいかがでしょうか。
 ○原中 政治家の方にいろいろな陳情に行った時に我々が壁にぶつかるのは、自分の選挙に対して地元の医師連盟は協力してくれなかったと、強い不満を表わす方もいらっしゃいます。
 日医が、政権与党、政府三役、あるいは官僚と話し合いをして、日医の姿勢を説明しているわけですが、地元の医師連盟も一緒になって働きかけをしてもらわないと非常に力が弱いのではないかと感じることがあります。
 今後、政治家と会う場合には、地元の県医師連盟あるいは郡市医師連盟の委員長と一緒に陳情に行くというようなことも必要になってくるのではないかと思っています。

─「医政活動研究会」を通じて若手会員に期待─

原中勝征委員長に聞く/政策実現のための陳情活動を活発化(写真) ○藤川 長期的な展望として、日医連と各政党の関わり、政治的なスタンスについてはどのように考えていますか。
 ○原中 まず、政権与党とつながりをもつということは、当然必要なことだと思います。
 ただし、日医というのは、国民医療を中心として考えていかなければならないわけですから、与野党問わず理解してもらえるように活動していかなければならないと考えています。
 ただ、与野党間で対立の強い状態、あるいは、このたびの東日本大震災のようなすべての国民が団結をして国難を乗り切ろうという機運が高まっている時など、その時々の政治のあり方、また、その対応というのは当然変化していくものと思います。
 しかし、あくまでも政治に左右されないで国民医療を守っていく、あるいは国民皆保険制度を維持していくという日医の考え方や、それから国民の安心・安全、安全保障は絶対に社会保障だという信念を持って、今後とも活動していくべきであると思っています。
 ○藤川 二年後の第二十三回参議院選挙の対応についてはいかがでしょうか。
 ○原中 参議院比例代表選挙について、日医連組織における推薦候補の必要があるかどうかということは、推薦候補がいた時といない時、すなわち過去と現在の日医連の活動と比較していけばいいと思います。たとえば、日医連の政治資金について、今現在は効率的に使用しているため、さほど多くの支出はないにもかかわらず、日医の意見が前と比べて政府のなかに取り入れられていると私は感じております。この事例にもあるように、何のために日医連は活動するのかをよくよく検証し、どのように進めていくべきか、みんなで考えればいいことだと思います。
 ○藤川 このたび、若手医師の会員を中心に医政活動を勉強していこうという主旨のもと、日医連に「医政活動研究会」という会を発足しましたが、この研究会にどのようなことを期待していますか。
 ○原中 今まで、日医連や都道府県医師連盟の役員になっている先生方は医政活動を長く経験しているので、どうしても若い人たちの熱き思いが意見として入りにくかったと思います。しかし、この研究会を通じて、若い人たちが一生懸命勉強していることが我々に通じてくるようになり、また、若い人たちが将来日医・日医連を担って活動していく希望の星だということを考えると、会を立ち上げたことはよかったと思いますし、また大きな期待を寄せています。

─東日本大震災への積極提言実施─

 ○藤川 東日本大震災でよく言われたのは、平時の法律で物事を解決しようとするといろいろ障害があって、一つひとつ外していかなくてはいけない。やはり最初に総理の発令のもとに非常事態宣言をして、非常時であるということを全国民に知らしめて、さまざまな法律の壁を乗り越えていくという方法で政府がスタートしなかったことが、後手後手に回った原因のひとつであると思います。日医連としても、そういうところも含めて提言をすべきかなと思いますが、いかがでしょうか。
 ○原中 そうですね。提言したいと思います。
 たとえば、今まで被災者救済の場合には、食糧というのは乾パンとカップヌードルと水だったわけですね。これはせいぜい一週間の被災ということが想定されていたわけです。しかし、今回のように何カ月あるいは何年にもわたるような被災であったことが大変な問題だったわけです。
 そして、阪神大震災の後に、同様の災害が起こった時には、非常事態を発令して対応するということが政府で決まっていたにもかかわらず、今の政府がそれを知らなかったのか、あるいは原発だけに目がいったのでしょうか。いずれにせよ、現場での苦しみというものを理解されなかったことは非常に残念です。私たちは、政府が何をどのように考えて行動したのかということの反省をしてもらわなければならないと思っています。
 ○藤川 東日本大震災による、賠償の問題や放射能による被曝医療の問題について、被災された方、被曝された方の医学的な援助を含めて、政治的にもアプローチしなければならないと思いますが…
 ○原中 原発に関しては、やはり隠さないで、危険なことは危険だ、あるいは故郷に帰れないのであれば、それをきちんと言わなければいけないと思います。土壌をちょっと入れ替えれば自宅に帰れるんだみたいな、姑息なことではいけません。帰れないなら帰れないなりの具体的な将来の生活支援など、政府は言明していくべきだと思います。
 それからもうひとつ、医療機関に関して重要なのは、二重債務問題の解決だと思います。
 今までやっとの思いで、借金をして導入した医療設備が流されてしまったり、あるいはもうそこには戻れない場合、過去の分は国が全部補償して、新たな債務に関しては、本体を担保に入れれば借りられるように、国が補償するという仕組みが必要だと思います。着のみ着のままで避難せざるを得なかった先生方に、新しい医療設備などが購入できるわけがありません。この二重債務の問題と、地元に必要な医療機関をつくることに関しては、国と県が一生懸命援助していく、あるいは補償していくことが必要だと考え、今後、強く訴えていくつもりです。
 ○藤川 今後ともさらにリーダシップを発揮していただきたいと思います。

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