日医連ニュース
日本医師連盟ニュース
2009/10/25(Sun.) 第57号 1・2・34/4 INDEX
日本医師連盟執行委員会開催
新たな医政活動に向けた第一歩

総括文(全文掲載)/『衆議院総選挙を総括する』/日本医師連盟委員長 唐澤祥人(写真)衆議院総選挙を総括する

 議事に移り、唐澤委員長は、九月十五日の執行委員会の議論を踏まえ、八月三十日の衆議院総選挙について総括の言葉を述べた。

総括文(全文掲載)
『衆議院総選挙を総括する』
日本医師連盟委員長 唐澤

 八月三十日、第四十五回衆議院議員総選挙が行われ、民主党が、単独過半数をはるかに超える議席を獲得し、国民の意思による政権交代が実現しました。
 わたしたち日本医師連盟は、政権与党であった自民党を支持し続けたわけですが、なぜそのような流れになったのか、衆議院選挙にいたる経緯を分析し、日本医師連盟と日本医師会が進めてきた活動を総括したうえで、今後の方向性について述べることとします。

はじめに

 投票日までの数カ月間、とくに公示以降は、民主党の「政権交代」というわかりやすいキャッチフレーズが全国を駆け巡りました。一部では、自民党への揺り戻しがあるとの指摘もありましたが、選挙戦終盤のマスコミの予想どおり民主党が圧勝しました。その理由として、自公政権に対する国民の不信感、怒りが政権交代を実現させたとの声もあります。しかし、それだけではなく、民主党に政権を任せてみたいという国民の意思、エネルギーが、新たな政権を誕生させたといえるのではないでしょうか。わたしたちは、このことを真摯に、かつ深刻に受け止めなければなりません。
 二〇〇一年に発足した小泉政権は、新自由主義による構造改革を断行しました。その結果、少し前まで「一億総中流」意識をもっていた日本国民の間に格差を生み、不公平感を募らせ、その勤勉な人生観や生活信条までをも破壊しました。さらに、昨年の米国発の世界同時不況により、一流といわれてきた企業が非正規雇用者をリストラし、いわゆる「年越し派遣村」が出現して、貧困層という言葉まで使われるようになりました。
 国民は、小泉政権以降の行き過ぎた構造改革に悲鳴をあげていましたが、政府与党が明確に応えることはありませんでした。
 社会保障においては、年金記録問題に端を発し、国民の将来不安が増幅しました。医療現場では、産科、小児科、救急医療をはじめとする地域医療の崩壊が現実のものとなりました。しかし、それでも政府与党が、大胆な方向転換を果たすことはありませんでした。

日本医師連盟と自民党支持

 日本医師連盟は、学術団体である日本医師会の会員を中心とした政治活動、とくに選挙活動を担う政治組織です。その支持政党については、平成十四年に策定された活動方針に、「政権与党である自由民主党を支持する」、「ただし、各都道府県医師連盟の特性を充分に理解し、自主性を排除しない」と記載されています。日本医師連盟は、この方針に基づいて自民党を支持してきました。
 さらに、今回の総選挙では、新たに「衆議院議員選挙に臨む方針」を策定し、「自民党を中心とした政権与党の候補者を推薦する」と踏み込んだ表現に修正しました。
 これまでの国政選挙では、一部の例外を除いて、全国の医師連盟は自民党支持で概ね一本化され、選挙運動を展開してきました。しかし、今回の総選挙では、全国各地で地域医師連盟を中心にした自民党離れが加速しました。
 その最大の理由は、「長年にわたって医療費を抑制し、地域医療を崩壊させてきた自民党を、なぜこの期に及んで支持し続けるのか」という会員の率直な疑問を払拭できなかったことにあると考えます。
 小泉政権下の、二〇〇二年度から二〇〇六年度までの五年間において、社会保障費の国庫支出は約一・一兆円削減されました。この間、診療報酬改定では、二度とも本体が引き下げられ、社会保障費一・一兆円削減のうち、医療費の削減によるものが約六五%を占める結果になりました。
 さらに、政府は「基本方針二〇〇六」で、その後の五年間においても同様の削減をすることを決め、毎年二千二百億円の削減が強いられることになったのです。
 日本医師会は、この二千二百億円削減の撤回を一貫して求め続けてきました。麻生前総理は、昨年、当時は自民党幹事長でしたが、自民党総裁選に立候補した時、非公式ではあるとはいえ、二〇一〇年度の予算編成以降は、社会保障費の年二千二百億円の削減を撤回すると日本医師会に伝えてきました。しかし、今年六月に閣議決定された「基本方針二〇〇九」にも、「『基本方針二〇〇六』等を踏まえ」という文言はそのまま残り、明確な撤回にはいたりませんでした。八月の二〇一〇年度概算要求基準、いわゆるシーリングでは、厚生労働関係議員の奮闘によって、かろうじて二〇一〇年度においてのみ削減しないこととされたものの、やはり本質的な撤回にはいたりませんでした。
 同じ時期、日本医師会は地域医療の崩壊を進行させるべきではないとして、レセプトオンライン請求の完全義務化の撤回を求めました。しかし、これについても政府・自民党から具体的な確約を得ることはできず、結論は総選挙後に先送りされてしまいました。規制改革会議、行政改革本部の関係議員らが、自民党内の厚生労働関係議員に対して激しく抵抗したためです。自民党は、日本医師会の要求を呑むことによって「改革が後退した」と受け取られることを極端に恐れ、総選挙へのマイナス影響を懸念したのです。
 このようななかで、日本医師連盟がなぜ自民党を支持し続けるのかという点について、会員に対する説得力のある大義名分は失われていきました。

マニフェスト選挙

 今回ほど、マニフェストが注目された選挙はありません。民主党は七月二十四日から七月二十七日までにマニフェストおよびそれに準じるものを三編、自民党は七月三十一日と八月九日に、民主党の後追いの形で同じく二編を発表しました。日本医師会は、八月十九日の記者会見において、両党のマニフェストに対する最終的な見解を公表しましたが、これは、あくまで日本医師会の医療政策という観点から、客観的に分析、評価したものであり、選挙運動へ影響を与えないように配慮したものでした。
 両党のマニフェスト等を比較すると、民主党が各論に踏み込んでいた反面、自民党のそれは後追いの形で出したにもかかわらず、総論的かつ抽象的なものでした。
 たとえば、社会保障費の年二千二百億円削減について、自民党のマニフェストにはまったく記述がなかった一方、民主党は撤回することと明記していました。レセプトオンライン請求についても、民主党の記述のほうが具体的で、日本医師会の医療IT委員会が指摘した患者情報のセキュリティ確保にも言及していました。さらに、民主党は外来管理加算の五分要件の撤廃も明記していました。
 一方、日本医師会は診療報酬の引き上げによる地域医療全体の底上げを求めていますが、両党ともに医療費の引き上げには言及していたものの、自民党は急性期医療、民主党は公的病院の入院医療に重点を置くものになっていました。
 とはいえ、全体を通じて、民主党の医療政策はわかりやすく、そして、具体性がありました。これが医療現場で疲弊する会員に、一筋の光であったことは間違いありません。

それでも、なぜ自民党だったのか

 では、なぜ日本医師連盟は自民党支持で今回の総選挙をたたかったのか。その理由は、次のとおりです。
 (1)戦後、平時の国家安全保障の強化を進める立場の日本医師会は、政権与党と政策協議をする必要があり、長年にわたって、全国の医師連盟と地元の自民党都道府県連との間に深い絆が築かれていた。
 (2)政権与党であった自民党内に日本医師会の医療政策に理解を示し、政策実現に努力してくれた議員が少なからずいた。
 (3)このような自民党との関係に偏り、日本医師連盟が自らの政治活動についての検証が不充分であった。
 (4)民主党はかつて医療費適正化を主張していた。今回の選挙ではマニフェストが公表されるまで、民主党の医療政策が不明であり、さまざまな情報を加えて医療政策の詳細が明確になったのは、選挙戦の終盤であった。
 以上の四点が、日本医師連盟が自民党支持の方針で総選挙に臨むことになった背景です。日本医師連盟として民主党を支持するべきではなかったのかというご批判もありますが、当時の情勢から確信をもって方針を転換するにはいたりませんでした。しかし、日本医師会が日常のロビー活動において、政権与党である自民党に気遣うあまり、民主党ほかの野党に日本医師会の医療政策を理解してもらう努力が足りなかったことは、率直に認めます。

政権交代後のあるべき姿

 日本医師会は、わが国の医療を守るすべての医師を代表する唯一の団体です。日本国民の医療を守る責任は重大であり、したがって、日本医師連盟は、日本医師会が提言する医療政策を実現し得る政党との関係を強化しなければなりません。現実的には政権与党と積極的に政策論議に取り組むことができるよう、早急に連携体制を構築することです。そのためには、役割分担を明確にしつつ政治団体である日本医師連盟と学術団体である日本医師会の組織的な分離も急がなければなりません。
 「なぜ、自民党なのか?」という会員の疑問にたいして、充分な説明をして払拭することはできませんでした。
 そのうえで、日本医師会と日本医師連盟は、国民の想いを敏感に察知し、今後も医療現場の危機に適切でスピード感のある対応をすることができる組織に生まれ変わらなければならない、その思いを強くしました。
 全国の地域医療の再生のために、日本医師連盟は政権交代を重く受け止め、決意をこめて以下(別表)の行動を起こすことを表明します。

総括文(全文掲載)/『衆議院総選挙を総括する』/日本医師連盟委員長 唐澤祥人(別表)

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