日医連ニュース
日本医師連盟ニュース
2009/8/25(Tue.) 第56号 1・234/4 INDEX
衆議院総選挙におけるマニフェストを検証
社会保障の財源を明確に!
 七月二十一日(火曜日)、麻生太郎総理大臣は衆議院を解散し、第四十五回衆議院総選挙を八月十八日公示、八月三十日投票とすることとした。それに伴い、各党が早々にマニフェスト(政権公約)を明らかにしたことから日本医師連盟は、問題点となる政策、とりわけ社会保障分野において検証した。自由民主党・民主党両党のマニフェストには社会保障を手厚くする政策が盛り込まれているが、財源については、景気回復後の消費税増税を明確にしている自由民主党と、四年間は消費税については議論しないという民主党において大きな違いがあるといえる。

平成21年7月28日 麻生太郎総理大臣・日医会館訪問
 衆議院解散を受け、主要各党は、七月中にマニフェスト(政権公約)を発表した。
 二大政党である自由民主党と民主党の掲げるマニフェスト(下記表)について、社会保障分野を中心に、公約実現に向けて必要な政策がいかに具体的に示されているかを厳しく検証した。
 自由民主党は、「安心」「活力」「責任」の三分野で重点政策を示しており、社会保障分野に関しては、「安心」のなかに「診療報酬は来年度プラス改定」、「後期高齢者医療制度は、年齢のみによる区分の見直し、公費負担の拡大に取り組みつつ、現行の枠組みを維持し抜本的に制度を改善」、「救急医療や産科・小児科・へき地医療の担い手である勤務医を確保」、「社会保障費二千二百億円削減は行わず」、「社会保障番号・カードを二〇一一年度中を目途に導入」、「中福祉・中負担の社会保障制度確立」等を掲げ、社会保障を手厚くする内容である。
 七月三十一日のマニフェスト発表時に、麻生総裁は「行きすぎた市場原理主義からは決別する」と述べ、小泉改革路線における費用節約のための社会保障費の自然増抑制政策から大転換することを表明した。財源については、景気回復後に社会保障に充てるため消費税率引き上げを含む抜本的な税制改革の実施を挙げた。

衆議院総選挙におけるマニフェストを検証/社会保障の財源を明確に!(図)

民主党の「無駄を省いて」の財源捻出は可能か?

 一方、民主党の社会保障分野については、「医師の数を一・五倍に増加」、「後期高齢者医療制度の廃止」、「医師・看護師・医療従事者の増員に努める医療機関の診療報酬(入院)の増額」等を掲げている。また、ほかにも子ども手当てなど一連の政策を掲げているが、年間十六兆八千億円もの財源が必要となる。
 財源論については、「四年間、消費税増税をすることは一切考えていない」と鳩山由紀夫代表は明言し、国の総予算二百七兆円を徹底的に効率化し無駄遣いや不用不急な事業を根絶することによって九・一兆円を捻出すると言っているが、その実効は甚だ疑問である。また、「埋蔵金の活用」や「租税特別措置の見直し」により七・七兆円を確保し、全体で十六兆八千億円もの財源捻出を約束しているが、政権交代を訴えている民主党政策としては、あまりにも無責任と言わざるを得ない。
 平成二十一年度総予算二百七兆円のうち、社会保障費、国債費以外の削減可能といわれる約四十兆円に、民主党は社会保障関係費における人件費や庁費等を含めた約七十一兆円から無駄を省くとしているが、そのほとんどが、補助金(四十九兆円)、地方交付税、医療費等の地方交付金等でありどこに無駄があるのかを示すべきである。
 与謝野馨財務大臣は、八月四日の記者会見で、民主党が掲げる一連の政策にかかる安定的な財源については、「消費税を二十五%以上にしないとできない」と示した。

社会保障費の現状と今後の財源(消費税増税)について

 社会保障費給付(年金・医療・介護等)の毎年の推移については、二〇〇六年度で約八十九兆円であり、二〇〇九年度においては約九十九兆円が支払われている。この四年間だけでも約十兆円もの伸びが生じている。当然、年金について抑制することはできない。また、医療・介護については、平均寿命が延びることで莫大な給付が増える一方であり、団塊の世代が高齢者となる二〇二五年度には百四十一兆円ともいわれている。
 この現状を見ても、民主党が言っている無駄を省いたとしても到底賄える状況ではない社会保障費の伸びなのである。つまり、新たな安定的な財源(消費税等)を充てなければ成り立たないと言わざるを得ない。
 社会保障費は、高齢化の進展等により、年間八千億円程度の自然増といわれるが、景気低迷等により税収はそれほど伸びておらず、そのため、小泉政権は二千二百億円を削減し、自然増を六千億円程度に抑える政策を二〇〇〇年から続けてきたため、地域医療の崩壊につながった経緯がある。
 この社会保障費二千二百億円の削減については、地域医療崩壊の根本原因であるとして、日本医師連盟および西島英利参議院議員、また、日本医療懇談会・医療政策研究会等における厚生労働関係国会議員により他国会議員、財務省、厚生労働省等へ徹底した陳情活動が行われ、その結果、ようやく社会保障のあり方について、方針転換させるに至ったところである。
 年金・医療・介護は、二千二百億円抑制の対象にしないということが、昨年七月に決まっていたが、本年六月二十三日の臨時閣議において、平成二十二年度の予算編成における骨太方針二〇〇九が決定されたが、「自然増はそのまま認める」、「平成二十二年度予算で機械的な二千二百億円削減は行わない」と約束をした。

消費税増税分はすべて年金・医療・介護等に充てる

 昨年の十月には新たな安定的な財源を確保するため、麻生総理は景気回復後の消費税増税に理解を求めた。平成二十一年三月に税制改正関連法が通過し、平成二十三年までに消費税を含む税制の抜本的な改革を行うため、必要な法制上の措置を講ずるとした。消費税の引き上げ時期と率は今後の検討となるが、経済状況を見極めての対応となる。当然、引き上げた財源は、すべて年金・医療および介護の社会保障給付ならびに少子化対策に充てるということも法律の 附則として記載された。

民主党政策面は課題山積

 民主党の政策については、財源論は当然明確にしたうえでのことだが、ほかにも問題点が挙げられる。「医師の数を一・五倍に増加」、「後期高齢者医療制度の廃止」、「租税特別措置の抜本的な見直し」、「包括払い制度の導入・医療の標準化」等の課題が山積している(別表)。

衆議院総選挙におけるマニフェストを検証/社会保障の財源を明確に!(図)

Copyright © 2002 日本医師連盟 All rights reserved.