日医連ニュース
日本医師連盟ニュース
2003/6/25(Wed.) 第25号 抜粋記事 1・2/2 INDEX
「医療は国家安全保障である」
第2回若手会員研修会
社会保障について坪井委員長が新たな方向性を語る
 六月七日、日本医師連盟は第二回目の若手会員研修会を日本医師会館で開催した。当日は衆議院三百小選挙区から選出された医師の参集のもと、坪井委員長による基調講演と分科会討論、および報告が行われた。基調講演では、坪井委員長が医療を含めた社会保障の新たな方向性や財源の確保について指摘、感銘の深い講演となった。

第2回若手会員研修会

 会は羽生田常任執行委員の司会で開催。冒頭あいさつに立った坪井委員長は「本研修会は、日頃医政活動に関心を寄せている一般の先生方が、医政の問題等について忌憚なく話し合いをし、そこで交わされた意見を今後の医政活動に生かしていこうという趣旨のもとで開催されている。一月に行われた第一回の研修会は、自由民主党の伊吹文明衆議院議員の講演が中心だったが、今回は私が三十分間の基調講演を行う。基調講演では、日本医師会は何を選択し、将来に向かって国民のために何をしなければならないか、そのためには今の政府が役に立つのかをはっきり述べたい。それに対して意見があれば、分科会等で大いに話をしてほしい。また、日頃の医政活動に対する先生方の意見を充分に聞かせていただきたい(要旨)」と檄を飛ばした。
 続いて、基調講演に移り、坪井委員長は「会員の医政活動への積極参加」をテーマに、次のような講演を行った。

坪井委員長基調講演要旨

第2回若手会員研修会小泉内閣が推し進める劣悪な医療改革
 小泉内閣の医療改革は、市場原理主義者による医療の価格づけと、財務官僚によって医療費総額を抑制するという二本柱をもとにして進められている。かつて、老人の医療費の伸び率管理が当時の厚生省から出され、日本医師会が反対し立ち消えとなったが、財務官僚から出ている案、また小泉内閣の経済財政諮問会議や総合規制改革会議でのペーパーには、「総枠規制」という言葉が頻繁に出てきており油断はできない。
 その経済財政諮問会議や総合規制改革会議では、株式会社の医療参入、医療費総額の伸びの抑制、公的保険による診療と自由診療との併用、医療の標準化、保険者と医療機関との直接契約等が主要な論点になっている。その根底には、民間会社の営利追究や財務省の医療費抑制策などがあり、容認できるものではない。また、本来公的医療保険の強化に全力投球すべきところを、一部の富める人のために自由診療を入れるというのはもってのほかといえよう。

小泉内閣は政策の決定過程を誤っている
 医療政策は、本来政府案と日本医師会案が政党審査のなかで平等に取り上げられ、討議成案されたものが閣議決定されるべきである。小泉内閣では、すべての政策が内閣と官邸に閉じ込められており、首相がトップダウンで閣議決定する。その背景には財務省の存在があり、財務省がやりたい放題にやっているというのが現状である。自由民主党も厚生労働省も、そこに力を及ぼすことができない。事実、官邸に話をもっていってもはねつけられてしまう。首相に会うことさえできない場合もある。これは、成熟した近代国家の政府の姿といえない。

前近代的な為政者の社会保障の概念
 今、国は老人を大切にすべきだとか、子どもが少ないから大変だとかいろいろ言っている。そうした為政者のバックグラウンドにある社会保障の概念は、近代までいわれていた弱者救済、施しという考え方に基づくものである。小泉首相は「セーフティーネット」という言葉をよく使う。この言葉の意味は空中ブランコで落ちるのを防ぐネットに代表されるものだが、社会保障とか医療というのは落ちてはいけないわけだから、落ちないようにしなければいけない。それには、今の財源のあり方や社会保障の考え方を変える必要がある。

今こそ社会保障のあり方を転換すべき
 国民の不安は老後や子育てにある。医療をはじめとする社会保障や将来に安全と安心がなければ、国民がお金を安心して消費に使える社会をつくることはできない。したがって、国民が安心できる社会保障の合意と、社会保障に対する理念・概念の改革が行われない限り、医療が真に国民、国家の役に立つようなものになり得ることはできない。
 大上段にいうならば、社会保障は国家安全保障である。安全保障は、生計の安全保障と生命の安全保障とに分けられる。生計の安全保障の基盤は就労であり、円滑な就労を可能にするには充実した教育が必要になる。その就労の場を、次の世代に譲り渡すのが退職であり、それに対する担保が年金である。しかし、現在はすべて縦割りであり、ライフサイクルにそった生計の保障を整え、安全を保障していくという考えはない。一方、生命の安全保障を司るのが医療であり、社会保障制度のどの部分においても最重要であり、最も充実させていかねばならない。だからこそ、医療は国家の安全保障なのである。

医療財源には特別会計を充てるべきである
 理想を実現するには財源が必要である。よく財源がないといわれるが、国の歳入のなかには「特別会計」というものがある。このなかには、国や国民のための財源が織り込まれているが、医療が国家の安全保障であると捉えるならば、特別会計のなかにある財源を充ててしかるべきである。何も百兆、二百兆を使おうというのではなく、二桁の数字があれば国民が満足できるような方法をとることはできる。特別会計の中身については、暗室に置かれているようなもので政治家でも必ずしもすべてわかっているわけではない。今、日医総研等で特別会計の中身について分析を進めており、近い将来社会保障に回すべきであるというような主張は必ずできるようになると考えている。

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